ぼくたちのリメイク6 アップロード日:9月1日 木緒 なち著 MF文庫J
※内容について触れているので、5巻目まで読まれていない方はご注意願います。
作家になるという夢を断ち、芸大を去ってしまった貫之を連れ戻そうと、ナナコを連れて川越に向かった橋場。
橋場はそこで、家の事情と自分の夢との間で板挟みになっている貫之と向き合うことになります。
大学卒業後ゼロ細ゲーム会社で人生を棒に振った後、10年前に戻り、芸大で高い能力を誇るプロデューサーとして目覚めた橋場。
しかし作品を作るということは、作家やイラストレーターなど多くの人を振り回し、心や人生をかき乱すということでもある。
貫之を取り戻すという行動も、結局は作品を作りたいというエゴを押し付ける行為。
そこに潜む理不尽さに、橋場はしっかりと向き合っています。
作品から読み取れる橋場は、しいていえば「優しいダークヒーロー」。
第4巻までの失敗を踏まえつつ、他人を駒として使う覚悟を固めた橋場が、どういう思いで仲間を取り返していくのかというところにシビれました。
しかも、この巻まではただの大病院の経営者としか描かれていなかった貫之の父親も、重たい使命を抱えている点も注目です。
貫之の存在を必要としていて、芸大に戻すわけにはいかない貫之の父は、容赦なく橋場や貫之に現実や覚悟の有無を突きつけます。
橋場と貫之、そして貫之の父親の3人が信念をぶつけ合っているところに、さながら戦記物を読んでいるような戦慄を覚えました。
ある魔女が死ぬまで -終わりの言葉と始まりの涙 坂著 KADOKAWA
感動はしたいけれど重たい話は嫌だ。
そんな方におすすめなのがこの一冊です。
17歳の誕生日に、魔女の師匠からいきなり1年後に死ぬことと、死を回避するためには1000粒の嬉し涙を集める必要があることを伝えられたメグ。
死がからむので、重たい話になるのかなと思いきや、このメグがいい感じにアホでドジでおもしろい。
表紙裏のカラーページで鳩が豆鉄砲を食らったような顔のメグのイラストが載っているのですが、その印象そのままに物語が進んでいきます。
小さい子供にからかわれたり、メグ・ラズベリーという名前を変に略されてズベリーと呼ばれたり、たまにメグ自身がオヤジっぽい話し方したり……
1年後死ぬかもしれないのにもっと緊張感持たんかーい!と笑いながらツッコミを入れつつ、どんどん読み進めていきました。
一方で感動するポイントをしっかりと押さえられていますね。
メグが関わった人の死と向き合うことで、自分も生きていかなきゃと思い、1000粒の嬉し涙を1年で集めるという難題に挑むところに素直に感動できます。
メグが暮らしているラピスという街の住民たちが、みんなメグを愛しているのにもほっこりしますね。
さらには、メグが師匠であるファウストもちゃっかり救っているところもいい。
もっと愛されてほしいと思えました。
とても優しい物語でした。
私、救世主なんだ。まぁ、一年後には死んでるんだけどね なめこ印著 ファンタジア文庫
罪華という、人の負の感情によって生み出された化け物によって、幼少期に妹を含めた家族を失った少年影山燐が、罪華に対する人類側の切り札として一年後に死ぬ運命を背負った少女神代風花と出会うボーイミーツガール。
「聖墓機関」という人類救済のための機関に属して、罪華と戦う物語です。
とはいえ一年後に死ぬ運命と引き換えに、自由奔放な生活が保障された神代風花が、影山燐を振りまわすところがおもしろい。
このままラブコメ的展開が続いてもいいのに、とすら思わせます。
ですが、ところどころに挟まれる罪華との戦闘の描写が、悲惨な物語世界であることを思い出させてくれます。
しかも、影山燐は属する組織、聖墓機関でも特に強い13人「背神者」の中でもトップの実力を誇っているのですが、その本当の理由があまりにも切ない。
影山燐にとっての仇は、自身の家族だけではないというところを見せつけられました。
ただし、途中で時系列が入れ替わる作品なので、よくよく注意しながら読み進めないと混乱するかもしれません。
注目すべきは罪華との戦闘時、影山燐の相棒となるアネモネという少女。
影山燐と神代風花のラブコメを楽しみつつ、彼女がどんな存在なのかを注視しながら読み進めるべきかなと思いました。
まだ第1巻なので、物語がどう転がるかわからないのですが、今後の展開が楽しみな作品でした。
罪華についてや、登場人物たちが持つ能力について、謎が多いのも見どころです。
『86――エイティシックス』や『探偵はもう死んでいる』並みの展開が期待できます。
あおとさくら 伊尾微著 GA文庫
中学生の頃からなぜか笑えなくなり、クラスになじめず、図書館で静かに本を読むのが日常の藤枝蒼が、図書館で出会った少女、日高咲良と出会う。
咲良は蒼を笑わせてみせると言い、図書館で毎日のように会うようになるが……。
ボーイミーツガールということもあり、性格も真逆に見える二人の青春が静かに描かれています。
友達多そうでよく笑って明るい(しかもイラストのおかげでその印象が強まる!)、いわゆるリア充な咲良と、内向的で暗い性格の蒼。
序盤、二人の違いが際立っていました。
どういう理由かわからないが人になじめないということは、時としてあると思いますが、そんな人にいきなりハイテンションでよく笑う人が一緒になったらどうなるのか、そんなドキドキを感じられます。
咲良と一緒になった蒼はしっかりと変化していきますが、そこまでの描写が丁寧ですね。
いわゆるリア充な咲良が、なぜ図書館で静かに本を読んでいるだけの蒼に目をつけたのか、そんな謎を残したまま……
咲良についての真実を蒼が知ったとき、彼女に何ができるのか。
やりたいことを見つけることの大切さでしたり、誰かのことを思ってその人のために動くことの尊さを感じられる作品でした。
わたしはあなたの涙になりたい 四季大輔著 ガガガ文庫
塩化病という、体が末端部分から徐々に塩になっていき、最終的に全身が塩になって死亡してしまうという病で母親を失った少年の物語です。
その後の天才ピアニストの少女との出会いが、少年の人生を大きく変えていくことになるのですが……。
感動作でした。
生き続けていく人に何ができるのか、ということをひたすら問う内容になっています。
舞台が福島であることもあって、3.11の東北大震災が出てきますし、さらには第二次世界大戦のドイツ軍により荒廃したワルシャワの歴史も出てきたりと、ラノベとは思えないほど重たいテーマを扱っているのですが、これがこの作品の肝です。
福島が地元というだけで、放射線がらみの風評被害を受けるだけでなく、大災害の被害者というレッテルを一方的に貼られる葛藤がこれでもかと描かれています。
何かを伝えるという行為はちょっと怖いですよね。
大災害や戦争で亡くなった方のことや、自分自身の抱える身体障碍について、他人に伝えるという行為。
それは、多くの人に感動を与えると同時に、ただのテレビドラマみたいに体験を大衆に消費されるという結果になります。
それでも伝え続けることの意義は何か。
この物語は問いかけてきます。
わたしはあなたの涙になりたい、というタイトルも、きちんと意味があって、それがわかったとき、つい泣きそうになりました。