きみは雪をみることができない 人間 六度著 メディアワークス文庫
大学生で小説を書くのが趣味の主人公は、芸術学部に通う岩戸優紀と出会い、二人は恋に落ちるが、岩戸優紀には冬になると冬眠してしまうという謎の病気を抱えていて……
この設定に、おっ、となりました。
異常体質、しかも医学的に体は健康であるということもあって、岩戸優紀やその家族は周囲の誤解や偏見に晒されながら生きてきた、という点にも惹かれます。
恋人になった主人公は、まず岩戸優紀のこの異常体質に直面することになります。
障害があって普通の女の子としての暮らしができなかった彼女のために、岩戸の家族と一緒に自分が何ができるかを模索していく……素敵です。
この後どんな困難が待ち構えていて、どう乗り越えていくんだろう、ということで、中盤までわくわくしながら読み進められました。
……中盤までは。
後半の展開は、はっきりいって「迷走」しているとしか思えない内容でした。
突拍子もなくヒロインが倒れたり、体に変化が起きたり、大して効果があるとは思えない伏線があったり、不必要に凝った表現が出てきたりと、読んでいて「?」となるところが多すぎます。
特に、二股疑惑に直面した主人公。
DV男子のように取り乱して、恋人の使っていた道具を粗末に扱って、前半で固めた恋人と寄り添って生きていくという覚悟はどこにいったんだ、という悪印象を受けました。
こうもヘイトを高められては、この後の展開にも納得できず、好感を持てません。
甘いです。
しかもこの作品で気になったのが、誤解、誤読につながる表現が目立つこと。
例えば、岩戸優紀が東京駅で東海道新幹線のひかりに乗ろうとするシーン。
岩戸優紀が駅で時刻表の電光掲示板を見上げるのですが、
「ぼやける視界の中に、赤い文字でのぞみ、と出ている。」(原文ママ)
あなたが乗るのはひかりでしょ! なに見間違えてるの!
そう叫びそうになりました(のぞみは黄色文字表示なのに!)。
それだけではありません。
同じく東京駅、東海道新幹線のホームで岩戸優紀の近くを通りがかった、連れが乗る新幹線を間違えかけて呼び止める赤の他人のセリフ。
「待って! そっちは大阪方面だよ、逆だよ逆」(原文ママ)
……あの、ここ東京駅東海道新幹線のホームですよね。
大阪方面の逆には車止めしかありませんよ?
ヒロインのそばでコントでもやっているのかと思いました。
しかもこれらの表現が出てくるのは、物語の超重要シーン。
心をわし掴みにしてほしいところで、こんな誤解につながる表現が出られてしまうと、感動する要素激減です。
このように、展開が突拍子、重要な場面でミスとしか思えない表現が出るという、お粗末さが目立つ作品でした。
異常体質を抱える恋人と家族に寄り添う、というコンセプトが魅力的なだけに非常に残念です。